n1 blog-4「業務改善助成金(特例コース)」

◎「賃上げと生産性向上の設備投資等を支援する助成金のご紹介(2)

 前回ブログに引き続き、標記制度の概要をご紹介します。

1 特例コースの概要
 新型コロナウイルス感染症の影響により売上高等が30%以上減少している中小企業事業者又は原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により利益率が5%ポイント以上低下している中小企業事業者が、令和3年7月16日から令和4年12月31日までの間に、事業場内最低賃金(事業場で最も低い賃金)を30円以上引上げ、これから生産性向上等に資する設備投資等を行う場合に、対象経費の範囲を特例的に拡大し、その費用の一部を助成します。

2 対象となる事業場と「通常コース」との相違点
(1)「生産指標」又は「利益率指標」のいずれかに該当すれば、中小企業であれば労働者100人超の企業も対象
(2)「生産指標」は、新型コロナウイルス感染症の影響により、「売上高または生産量等を示す指標の令和3年4月から令和4年12月までの間の連続した任意の3か月間の平均値」が、前年、前々年又は3年前同期に比べ、30%以上減少していること
(3)「利益率指標」は、原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、令和3年4月から令和4年12月のうち任意の1月における売上高総利益率又は売上高営業利益率が、前年同月に比べ5%ポイント低下していること
(4)令和3年7月16日から令和4年12月末までの間に、当該事業場における雇入れ後3か月を経過した労働者の事業場で最も低い賃金(「事業場内最低賃金」)を30円以上引き上げていること
*引き上げ前の事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内の事業場に限ります。
申請日までに賃金の引上げを完了し、引き上げた賃金を労働者に2か月分支払っておく必要があります。
賃金引上げ額が30円に満たない場合でも、申請時までに遡って追加の引上げを行い、当該差額が支払われた場合は、当該要件に該当するものと取り扱われます。
(5)助成額及び助成率は後段に記載のとおりです。引上げ額は「30円コース」のみです。
(6)生産性向上等に資する設備投資等に「関連する経費」も対象となります。

3 支給対象となる取組み
(1)就業規則等により、引上げ後の賃金額を事業場の労働者の下限の賃金額とすることを定め、引き上げ後の賃金額を支払っていること
  就業規則等で、「事業場内で最も低い時間当たりの賃金額(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げた賃金額を事業場内で使用する労働者の下限の賃金額とすること」を定める必要があります。
  *就業規則等がない場合は、「労働者の下限の賃金額についての申出書」の提出でも認められます。
(2)生産性向上、労働効率の増進に資する設備投資等を行い、その費用を支出すること
  *生産性向上に役立つ設備投資等を行う取組みに関連する費用として、業務改善計画に計上された経費(関連する経費)がある場合は、その費用も支払うことが必要です。
  *交付決定前に行った設備投資等は助成対象となりません。

4 助成額及び助成率
 上記3の(1)、(2)の要件を満たした場合に、(2)で要した費用に、表1で定める助成率(3/4又は4/5)を乗じた額又は表1の「引上げ労働者数」に応じて定める上限額のいずれか低い額が支給されます。
(下記の表1、2は、厚生労働省労働基準局賃金課「業務改善助成金特例コース 申請マニュアル」4P、7Pの表を引用)


 *上記の表1にある「引上げ労働者数」のカウントの考え方は通常コースと同様です。前回ブログをご参照ください。 
 *本助成金の対象労働者は雇用保険に加入している必要はありませんので、週所定労働時間が20時間未満のパートタイマーやアルバイトも対象労働者になり得ます。

5 注意点
(1)申請手続き
  繰り返しになりますが、「通常コース」との手続き上の違いに留意する必要があります。「通常コース」は労働局に交付申請書を提出した後に賃上げを行うのに対して、「特例コース」は交付申請書提出前に賃上げした賃金を2か月支給する必要があります。加えて、交付申請前に就業規則等の改定も完了していることが必要です。
(2)設備投資等の実施時期等
  「特例コース」も「通常コース」と同様に、交付申請書を提出して労働局の承認が出てから実施する必要があります。既に購入している設備機器等は対象となりません。また、「特例コース」に認められている「関連経費」は、生産性向上等に資する設備機器等の購入に付随するものとして認められており、「関連経費」単独で申請することはできません。
(3)申請期限等
 ①申請期限は令和5年1月31日です。
 ②予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集を終了する場合があります。
 ③事業完了期限は、令和5年3月31日です。

6 まとめ
 以上のように、令和4年10月1日の地域別最低賃金の発効日前に賃上げを完了していても、上記記載の要件を満たしていれば、「通常コース」と異なり、新たな賃上げコストの発生はなく(あるいは少なく)申請が可能です。さらに、「特例コース」も週所定労働時間が20時間未満のパートタイマーやアルバイトも対象労働者になり得ますので、小規模事業者の皆様も申請できないか検討されてはいかがでしょうか。ただし、申請期限と、年度内の事業完了にご留意ください。
 また、申請に係る添付書類や手続きなどについても細かい指定と確認があって、不備などがあれば不交付決定となったり、交付決定後に設備投資等を実施しても助成金の減額や資金交付されないこともありますのでご注意ください。
 当事務所でもご相談を承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

 最後に、前回ブログでもお伝えしたように、厚生労働省の令和4年度第二次補正予算案では「通常コース」の助成上限額の引上げ等制度拡充案が示されていますので、今後も注目すべき助成金です。予算が成立し制度の詳細が明らかになった際には、ブログでご紹介しますので、是非フォローしてください。  

(出典)
・厚生労働省労働基準局賃金課「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金特例コース)申請マニュアル」
(参考文献)
・日本法令「ビジネスガイド」(12月号)「特集1 経営環境リスク対応で活用できる助成金&補助金」
・厚生労働省「業務改善助成金特例コースQ&A」

【画像は、厚木市某所の夕景です】