n1 blog-10 就業規則の点検

◎就業規則と労働契約書(労働条件通知書)の労働条件は整合していますか

 常時10人以上の労働者を使用する事業場において、作成と労働基準監督署への届出義務が課されている「就業規則」の法令上の主な点検ポイントは次のとおりです。
 就業規則は法令を遵守した内容で作成され、法令に定められている手続きがとられている必要があります。これらは基本的なことですが、疎かにすると大きな問題に発展する恐れがあるので注意が必要です。
 □ 就業規則は労働基準監督署に届出されている
 □ 就業規則は雇用形態別に作成されている
 □ 就業規則は労働者に周知されている(注1)
 □ 就業規則の内容は最新の法令に対応している
 □ 就業規則に絶対的必要記載事項等が正しく記載されている(注2)
(注1)就業規則に労働者を拘束する効力を認めるためには、適用を受ける事業場の労働者に就業規則を周知していることが要件となります。具体的には、次のいずれかの周知方法を採ることが必要です。①常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付ける ②書面を労働者に交付する ③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する。作業場で、労働者が必要なときにいつでも就業規則の内容を確認できるようにしなければなりません。
(注2)就業規則に必ず定めなければいけない絶対的必要記載事項は次の3つです。①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項(*) ②賃金(臨時の賃金等を除く。以下に同じ)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む) 
 この絶対的必要記載事項と、退職手当や臨時の賃金、安全および衛生などの定めをする場合には就業規則に記載しなければいけない相対的必要記載事項が、就業規則で定めなければならない労働条件です(労働基準法89条)。
(*)「所定労働時間を超える労働の有無(残業の有無)」は、絶対的必要記載事項ではありませんが、たとえ36協定を締結したとしても、就業規則に所定労働時間を超える労働に関する規定がないと、労働者に時間外労働を命ずることはできません。労働者に時間外労働を命ずる場合には、就業規則にも規定を設けることが必要です。  

 就業規則は、労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類ですが、基本的に使用者が定めるものです。他方、労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立します(労働契約法6条)。労働契約の締結にあたって、労働契約書を取り交わすことは、法律上義務付けられていません。ただし、労働基準法15条1項は、労働契約の締結時に労働条件を明示することを求めています。このため多くの使用者は、労働契約書を取り交わすことに代えて、労働契約の締結時に労働条件通知書を交付しています。
 この「労働契約」と(労働基準法などの)「法令」、(使用者と労働組合の団体交渉等を通じて労使が合意した内容を書面に取りまとめて、双方が署名または記名押印した文書である)「労働協約」、「就業規則」の関係は次のとおりです。法令 〉労働協約 〉就業規則 〉労働契約  労働基準法、労働契約法、労働組合法の定めにより、法令・就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約や労働協約で定める基準に違反する労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、無効となった部分は法令、労働協約、就業規則が定める基準となります。また、就業規則も、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反して定めることはできません(労働基準法92条)。したがって、就業規則は、その職場で適用される労働条件の最低基準を定めたものということができます。
 
 このため次のケースでは、使用者が意図しない労働条件が適用される恐れがあります。
①労働契約書や労働条件通知書で明示する賃金が、就業規則で定める賃金を下回っている場合
 就業規則ではパートタイマーの賃金を時給1,200円としておきながら、個別に締結した労働契約書や労働条件通知書では時給1,100円としていたとします。この場合、労働契約法12条により、就業規則で定める基準に達しない労働契約は、その部分については無効となり、無効となった部分は、就業規則で定める基準となることから、時給1,200円で契約を締結したことになります。ちなみに、就業規則が時給1,100円、労働条件通知書が時給1,200円であった場合には、個別の労働契約の時給が就業規則の時給を上回っていますので、労働契約時に合意した時給1,200円は有効です(労働契約法7条但書)。また、労働契約書や労働条件通知書には規定はないが、就業規則には規定がある事項については、就業規則の規定が適用されます。
②雇用形態別に就業規則が定められていない場合
 就業規則を作成する使用者は、事業場のすべての人に何らかの就業規則が適用されるように作成することが必要です。正社員の就業規則はあるが、同じ事業場のパートタイマーや契約社員について適用する就業規則が存在しないという場合には、労働基準法89条の就業規則の作成義務違反となります。
 仮に、パートタイマーや契約社員など、異なる雇用形態の労働者が働いている事業場で、雇用形態別に就業規則が定められていないと、個別の労働契約書や労働条件通知書の労働条件を上回る(正社員向けに作成された)就業規則の規定が適用される恐れがあります。例えば、賃金規定について、パートタイマーについては別に定めるとしておきながら、定めがなかった場合には、正社員の賃金規定(毎月の賃金や諸手当、賞与や退職金など)による支払いを労働者に請求される恐れがあります。
 こうした問題を発生させないためにも、雇用形態別に適用される就業規則を作成するとともに、(正社員向けの)就業規則の本則において、当該別個の就業規則の適用対象となる労働者に係る適用除外規定または委任規定を設けて明確に区分することが望ましいと言えます。ただしその場合でも、不合理な待遇の禁止(パート・有期雇用労働法8条)などに反しないように規定を定める必要があります(この点に関しては、別の機会にお話ししたいと思います)。
 
 使用者と労働者の関係が良好である間は、①や②に内在している問題が表面化することはありません。しかし、解雇や退職勧奨などで関係が悪化すると、賃金の差額を請求される等により問題が顕在化することがあります。賃金請求権の消滅時効期間が3年となっている現在では、請求権が認められると経営への影響は小さくありません。就業規則は、法改正の都度、見直しがされていると思いますが、法改正に関連する規定の見直しにとどまっていて、その他の規定は長年見直しの検討がなされていない恐れがあります。このため最近の労働実態や個別の労働契約書・労働条件通知書と就業規則の労働条件が整合していない点があるかもしれません。定期的に就業規則を点検することで、労務管理上のリスクを回避することをお勧めします。 

(参考)
【労働基準法】
(この法律違反の契約)
第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。
(法令及び労働協約との関係)
第92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 行政官庁は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。
第93条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる。

【労働契約法】
(労働契約の成立)
第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
(就業規則違反の労働契約)
第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

【労働組合法】
(基準の効力)
第16条 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

【画像は、東京スカイツリーから見た富士山や新宿副都心方面の風景です】