n1 blog-12 「リスキリング」とは

◎お勧めのビジネス書『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』後藤宗明著のご紹介

画像をクリックすると
Amazonのサイトで、
試し読みができます。

 我が国政府も本腰を入れて推進している「リスキリング」。
 なぜ今「リスキリング」が必要とされていて、その目的は何か。誰が、いつ、どこで、何を、どのように進めれば良いのか。本書は、こうした疑問に対し、グローバルな視点(世界の潮流、動向)も交えて具体的に解説し、答えてくれる一冊です。

 本書は、グロービス経営大学院などが主催する「2023年 読者が選ぶ ビジネスパーソンが「今 読むべき本」」のイノベーション部門賞を獲得し、すでに読まれた方も多いと思います。まだ読まれていない方は、企業経営や個人のキャリア形成に必要不可欠とされている「リスキリング」の手引書として、ご一読をお勧めします。
 ここでは本書の一部をご紹介させていただきます。太字は本書からの引用、要約です。

「リスキリング」とは

 「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と定義しています。

 これまで日本では、和製英語の「スキルアップ」という言葉が良く使われてきました。「スキルアップ」は、仕事や研修、学習、訓練などを通じて、個人の能力を向上させることとして、主に現在の職務の遂行能力を引き上げる意味で用いられてきました。
 これに対して、「リスキリング」は、獲得する必要のあるスキル(=デジタル)や目的(=新しい業務や職業に就くこと)が明確になっています。

なぜ「リスキリング」が必要なのか

 一番の大きな理由は、テクノロジーが浸透し、労働の自動化が進むことで、人間の雇用がAIやロボットに代替される「技術的失業」が大量に発生する未来が予測されていることです。この技術的失業が起きる最大の原因は、労働者の「スキルギャップ」にあると考えています。デジタルテクノロジーの急速な進歩によって、衰退する産業がある一方で、成長産業では新たな雇用が生まれています。
 しかしながら、新たな雇用に必要なスキルを多くの労働者が持っていないために求められているスキルとのギャップが生じています。このギャップを埋めるためには「リスキリング」が必要です。

 2020年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会では、「第4次産業革命によって1億3300万人分の新しい仕事が生まれると同時に、7500万人の雇用がこれらの新技術によって奪われる可能性がある」との発表がありました。こうした技術的失業に対する解決策として、世界経済フォーラムはReskiling Revolution Plattformというプロジェクトを開始し、このプロジェクトを通じて「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」という宣言を採択しました。

 技術的失業の解決策として、世界的に「リスキリング」が提唱される中で、米国では「The Great Resignation(大退職時代=自発的な従業員の退職)という現象が見られるようになっています。自主退職者は、2020年4月の210万人から増加が続き、2021年11月には453万人が自主退職するという大きな社会問題になっています。
 筆者はこの現象が生まれた理由を、関連する200以上の記事から、①価値観の変化 ②職場環境への不満 ③個人のキャリアによる不満 の3つに分類しました。そして特に注目すべき自主的に退職する理由として、10の理由を挙げて解説しています。
 
10の理由の中で私が注目したのは、「4 従業員のエンゲージメントの低下」と「8 さらなる成長機会の追求」です。共通しているのは、従業員が勤務先は成長機会を提供していないとの認識です。この「成長機会がない」はリスキリングと大いに関係しています。

 残念ながら我が国は、「リスキリング」の後進国といえます。I MDというスイスのビジネススクールが毎年発表している世界デジタルランキングにおいて、2021年度は全世界で28位、アジア太平洋地域では14カ国・地域中9位、人材の知識レベルに至っては全世界で47位です。

 こうした現状の中でも、我が国企業の人への投資は、他の先進諸国の中でも低い水準にあります。経営者の方から「人材育成に投資をしても転職してしまうので効果がない」との声をお聞きしますが、勤務先に「リスキリング」の制度があって、新たな業務にチャレンジする機会があることで自身の成長を実感し、思い描いている将来キャリアが実現できるのであれば、上記のような「エンゲージメントの低下」や「成長機会の追求」による離職は防げるものと考えます。
 むしろ、政府が推進する成長産業への労働移動が進むことによって、人に投資しない企業の人材の定着率は厳しいものとなっていくのではないでしょうか。日経ビジネスの最新号(2/20)でも「大転職時代 引き留めるより引き付けよ」の特集を組んで、企業がキャリア採用(中途採用)を強化し、働き手の意識も変化して潜在的な転職希望者は800万人を超え、日本は「大転職時代」を迎えている、企業は人材を引き付ける「成長できる環境」整備などに取り組むことが必要になっていると指摘しています。

 もちろん、自主退職(転職)の理由は、成長できる環境がないことだけではありません。筆者も「ワークライフバランスの見直し」や「給与、評価への不満」などを理由に挙げています。これらの理由への対処には、生産性や収益力の向上などによって、労働時間の削減や賃上げによる処遇の改善などを図ることが必要です。この生産性や収益力の向上についても、「リスキリング」して、デジタルテクノロジーを採用することによる経営革新などが必要です。
 今後の人材の獲得や企業業績の向上に必要な「リスキリング」の実績は、経営戦略や人事労務戦略上の重要なKPI(重要業績評価指標)になるものと思われます。

 リスキリングは、労働者、企業、国の各層において、後回しにすることはできない喫緊の課題なのです。

「リスキリング」の目的、誰が実施し、いつ、どこで、何を、学ぶのか

 「学び直し」として良く使われる「リカレント教育」と「リスキリング」を比較することで、「リスキリング」の目的や実施主体などを明らかにしています。
 「リカレント教育」は、「学び直し」そのものが目的かつ、職業と関係ない学びも含むのに対し、「リスキリング」は、新しい業務や職業に就くことが目的であり、その目的に直結するスキル習得を指しています。

 リカレント教育は、個人の関心が原点であり、個人が自分の好きなことを学ぶ機会を探し、私的な活動として取り組むことが基本であるため、実施責任は個人にあります。一方で、リスキリングは、技術的失業を背景として、企業の生き残りをかけた変革ニーズに基づくものであるため、企業が従業員へリスキリング機会を提供し、実施責任は企業にあります。また、デジタル戦略を国家主導で行なっているデジタル先進国では、リスキリングも国家主導で行なってます。

 下記の表は、本書からの引用です。 

リスキリングリカレント教育
期間短期間(12〜18ヶ月)長期間(反復)         
背景テクノロジーの連携による自動化がもたらす雇用消失人生100年時代の生涯学習
目的学習およびスキル習得学習
実施責任企業(国によっては行政主導)個人(の関心が原点)
講座提供民間企業(スタートアップ中心)大学等、教育機関
学習分野デジタル分野広範囲
履修証明マイクロ・クレデンシャル(オンライン上の学習履歴証明)公的学位
出典:一般社団法人ジャパン・リスキング・イニシアチブ作成資料

 このように、リスキリングは実施主体及び実施責任が企業であり、業務の一環として行うものです。したがって、業務時間内OFF-JTで提供されることが原則とされています。
 国のリスキリングを支援する助成金「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」も業務として実施されるOFF-JTに対して助成する制度となっています(詳細はn1 blog-9をご覧ください)。

リスキリングする方法は・・・

 ここまで、「第1章 なぜリスキリングする必要があるのか」の一部についてご紹介しました。
 本書は、「第2章 リスキリングする方法」「第3章 リスキリングを実践する10のプロセス」「第4章 リスキリングと「スキルベースの採用」の時代の到来」「第5章 リスキリングによるキャリアアップと人材流動化」「第6章 AIやロボットが同僚になる新たな時代に向けて」に続きます。

 リスキリングの重要性は分かるが、そもそもデジタルテクノロジーに関するリテラシーが足りない、スキルを持った人材がいないなかでどのように進めていけば良いか分からない、といった課題に対して、海外の最新情報や事例などを交えて、微に入り細に入り効果的な具体策を提案してくれています。デジタルテクノロジーの最新動向やリテラシー向上のための情報収集と学習方法、リスキリングのプラットフォームなど、この一冊で多くの情報を入手することができます。

 これらの方法論は、テクノロジー分野の経験がゼロであった著者が、転職を繰り返す中で40歳からリスキリングしてきた経験や、現在リスキリングの普及に携わっている活動を通じて導き出したものです。
 リスキリングについて関心はあるが、どこから手をつけて良いかわからない経営者や個人にとっては、羅針盤となる一冊です。
 
 中小企業においては、経営者自らがリスキリングすることが有効であるとされています。経営者が従業員に直接影響力を発揮できるからです。まだ本書をお読みでない方が、関心を持っていただけましたら、是非一度、書店で手にとってご覧ください。

 【画像は、25年振りに上演されている日本演劇史に残る傑作二人芝居「笑の大学」(作・演出 三谷幸喜)のPARCO劇場入口の映像です。】