◎ 「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の公表

 11月29日、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局と公正取引委員会は、連名で上記指針を公開しました。
 本指針の概要は次のとおりです。

1. 指針の性格

・労務費の転嫁に関する事業者の発注者・受注者の双方からの行動指針。
・発注者及び受注者が採るべき行動/求められる行動を12の行動指針として取りまとめ、それぞれに「労務費の適切な転嫁に向けた取組事例」、「留意すべき点」などを記載。
本指針に記載の12の行動指針に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法及び下請代金法に基づき厳正に対処することを明記。
・他方で、発注者としての行動を全て適切に行なっている場合、取引当事者間で十分に協議が行われたものと考えられ、通常は独占禁止法及び下請代金法上の問題が生じない旨を明記。

2. 発注者として採るべき行動/求められる行動

行動①:本社(経営トップ)の関与
①労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること、②経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと、③その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと。

行動②:発注者側からの定期的な協議の実施
・発注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては転嫁について協議が必要であることに留意が必要である。
・協議することなく長年価格を据え置くことや、スポット取引とはいえないにもかかわらずスポット取引であることを理由に協議することなく価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請代金法上の買いたたきとして問題となるおそれがある。

行動③:説明・資料を求める場合は公表資料とすること
・労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠があるものとして尊重すること。

行動④:サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
・労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること。
行動⑤:要請があれば協議のテーブルにつくこと
・受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。
行動⑥:必要に応じ考え方を提案すること
・受注者からの申入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること。

3. 受注者として採るべき行動/求められる行動  

行動①:相談窓口の活用
・労務費上昇分の価格転嫁の交渉の仕方について、国・地方公共団体の相談窓口、中小企業の支援機関(全国の商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨むこと。
行動②:根拠とする資料
・発注者との価格交渉において使用する労務費の上昇傾向を示す根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いること。
行動③:値上げ要請のタイミング
・労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うこと。
行動④:発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示
・発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示すること。発注者に提示する価格の設定においては、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。

4. 発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動

行動①:定期的なコミュニケーション
・定期的にコミュニケーションをとること。
行動②:交渉記録の作成、発注者と受注者の双方で保管
・価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管すること。

5. 今後の対応

 ①内閣官房において、各府省庁・産業界・労働界等の協力を得て本指針の周知活動を実施し、②公正取引委員会において、労務費の転嫁の協議に応じない事業者に関する情報を提供できるフォームを設置する。

「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(概要)」(別添1)はこちら

【画像は、12月3日に開催された関東大学ラグビー対抗戦 明治大学対早稲田大学の国立競技場の風景です。】