令和5年4月1日に施行予定の労働基準法等の改正点

明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願い申し上げます。
新年最初の投稿は、今年4月に施行が予定されている労働基準法、育児・介護休業法、民法の改正についてご紹介します。

【労働基準法】割増賃金率、賃金支払方法についての改正
・月60時間を超える時間外労働(1日8時間・週40時間の法定労働時間を超える労働)の割増賃金率が、中小企業についても「50%」に引き上げられます。この結果、中小企業も月60時間を超える時間外労働を深夜に行う場合には、時間外割増賃金率50%+深夜割増賃金率25%=75%となります。
(解説)時間外労働の抑制を図るために、大企業については2010年4月1日から既に「50%」とされていましたが、中小企業については適用が猶予され「25%」に据え置かれていました(附則138条)。今回の改正法(猶予措置の廃止)の施行により、全ての事業主に「50%」が適用されることになります(37条1項)。
            
・デジタルマネーによる賃金の支払いが解禁されます。
(解説)労働基準法24条は、賃金について、①通貨(現金)で ②直接労働者に ③全額を ④毎月1回以上 ⑤一定の期日を定めて 支払わなければならないとの賃金支払五原則を定めています。さらに労働基準法施行規則7条の2第1項により、賃金の支払い方法として、労働者の同意を得た場合には、労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みなどが認められていました。今回の改正では、労働者の同意を得た上で、一定の要件を満たした場合に限って、デジタルマネー(○○ペイなど)による賃金の支払いが可能になります。

【育児・介護休業法】育児休業の取得状況の公表義務付けの改正
・育児休業の取得状況を年1回公表することが義務付けられる企業の範囲が、常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主に拡大されます。
(解説)育児休業の取得をさらに促すために、これまで「プラチナくるみん」認定企業に義務付けられた取得状況の公表を拡大するものです。公表内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。対象となる企業は、令和5年4月1日以後に開始する事業年度の直前の事業年度の育児休業等の取得状況を把握する必要があります。公表は、自社のホームページ等のほか、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で行う方法もあります。

【民法】相隣関係規定などの改正
(改正民法209条 相隣関係規定)
・隣地使用権の範囲が拡大され、①境界またはその付近における障壁又は建物・工作物の築造・収去・修繕 ②境界標の調査・境界に関する測量 ③第233条第3項の規定による枝の切り取り(後段を参照)の場合には隣地を使用することができます。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできません。隣地の使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。そして、隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければなりません。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知を行えば良いとしています。
(解説)改正前民法では、「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」とされており、法律で定める以外の隣地使用は明らかではなく、隣地が所有者不明であった場合は承諾を得ることができないために裁判所の手続きが必要でした。今回の改正で「隣地を使用できる場合」について従前の定めに加えて他の場合が明記され、隣地使用権の行使の方法についても具体的に示されたことにより、行使の方法に従えば承諾を得られなくても隣地を使用できることになりました。

・必要な範囲で他人の土地にライフライン設備(電気・ガス・水道など)を設置する権利や他人が所有するライフライン設備を使用できるようになります(改正民法213条の2)。
(解説)改正前民法には、こうしたライフラインの設置に関する規定はありませんでしたので、隣地使用に関する民法の規定を類推適用して、個々に救済を図ってきました。ただし、要件が明確ではないのでその主張立証は容易なものではなく、また、設置を予定している土地等の所有者が不明である場合には設置ができないという問題がありました。また、使用を受忍することで金銭を請求できるのかという点も不明確でした。
 今回の改正によって新たな規定が新設され、他人の土地にライフライン設備を設置する権利、他人が所有する設備を利用する権利が明文化される一方、設備設置・使用方法について一定の限度が定められました。また、ライフラインの設置権、使用権に関して金銭(償金)を支払う義務が明記され、具体的には、設備設置工事のために一時的に土地を使用する際の償金と、設備の設置により継続的に土地の一部が使用できなくなることによる損害に対する償金が定められました。

・土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときであって、①竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき ②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき ③急迫の事情があるとき は、越境した枝を自ら切除できるようになります(改正民法233条第3項)。
(解説)改正前民法では、隣地から根や枝の越境があった場合には、根については越境されている土地の所有者は自ら越境部分を切除できましたが、枝については所有者に対し切除を請求できるだけで自ら枝を切除できませんでした。

 このほかの民法の改正としては、共有制度の見直し、所有者不明土地管理制度などの創設、相続制度の見直しが施行されます。これらの改正は、近年、問題となっている所有者が不明な土地や、所有者が判明していてもその所在が不明な土地の解決などを目的としています。

【画像は、静岡県静岡市の日本平から眺めた富士山です。】