n1 blog-6 従業員を雇用したら調製する「法定三帳簿」
◎起業する皆様へ:従業員を雇用したら調製する書類
起業して、従業員を1名(パート・アルバイトを含む)以上雇用した場合の労災保険や雇用保険の加入手続きについては、起業に関する指南書でもよく取り上げられています。他方、従業員(パート・アルバイト含む)を雇用した場合に作成・管理が義務付けられている「法定三帳簿」について解説している書籍はあまり見当たりません。
法定三帳簿とは、労働基準法などで調製が義務付けられている次の書類です。
1 労働者名簿
労働基準法第107条は「使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日々雇われている者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない」と定めています。労働者名簿に記入しなければならない事項は、労働基準法施行規則第53条に次のように定められています。
①性別 ②住所 ③従事する業務の種類(常時30人未満の労働者を使用する事業においては記入不要) ④雇用の年月日 ⑤退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。) ⑥死亡の年月日及びその原因
2 賃金台帳
労働基準法第108条は「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない」と定めています。賃金台帳に記入しなければならない事項は、労働基準法施行規則第54条に次のように定められています。
①氏名 ②性別 ③賃金計算期間 ④労働日数 ⑤労働時間数 ⑥時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数 ⑦基本給や手当等の種類と額 ⑧賃金の控除項目と額
3 出勤簿
出勤簿は労働基準法に定めはありません。ただし、上記の労働基準法施行規則第54号で、労働時間数等を把握して賃金台帳への記入が義務付けられており、2017年1月に策定された厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、出勤簿やタイムカードなどの労働時間の記録に関する書類を保存しなければいけないとしています。
◯法定三帳簿の保存期間と起算日
法定三帳簿の保存期間は、労働基準法第109条により5年間の保管が義務付けられています。ただし、当分の間は経過措置として3年間に据え置かれています。
保存期間の起算日は、労働基準法施行規則第56条の定めにより、労働者名簿は「労働者の死亡、退職、解雇の日」、賃金台帳は「最後の記入をした日」、出勤簿は「最後に出勤した日」ですが、最後の「賃金の支払期日」が(締め支払いの関係で)、賃金台帳と出勤簿の上記起算日よりも遅い時は、「賃金の支払期日」が賃金台帳と出勤簿の起算日となります。そして、紙以外の任意の方法で管理・保管することが可能です。
◯様式
記載内容に漏れがなければ独自の様式で作成しても問題はありません。労働者名簿と賃金台帳については、厚生労働省のHPに労働基準法関係主要様式が掲載されています。
◯その他
労働基準法第101条の定めにより、労働基準監督署による監査の際に法定三帳簿の提出を求められることがあります。
労働基準法第120条で、上記の保存期間の義務に違反した場合の罰則規定(30万円以下の罰金)が定められています。
以上のように法定三帳簿は法令などで調製が定められている重要な書類です。そして、労働保険の加入手続きや助成金・補助金の申請手続きなどでも法定三帳簿の提出を求められることがあります。
加えて、自社の働き方改革や賃上げなどを検討する際に、現状を把握・分析するデータとして活用することも見込まれます。
このため法定三帳簿を正確に調製することが必要ですが、「労働者名簿」は記載事項に変更があった都度、「賃金台帳」は給与の支払いの都度、「出勤簿」は日々記録する必要があるなど更新頻度が高く、起業されたばかりで余裕の少ない方にとっては記録する労働者数は少ないとはいえ事務負担は軽くありません。法定三帳簿の重要性や有用性を認識し、労務管理システムなどを活用して、データを正確に記録・管理・保存する仕組みを作っていただくことが大切です。
【画像は、北海道釧路市の釧路湿原です】